上州名物、おっかさん
| <上州名物、おっかさん> 2016.7.31 袈裟丸山を登り終えて折場登山口まで戻ってくると、愛車(以下「R君」と呼ぶ。)のワイパーに「水沼駅温泉センター」のチラシが挟んであった。 八潮ツツジが見頃の土曜日。山も相当の賑わいと踏んで、こんな山奥まで営業活動に来るんだから、余程人気のない温泉か?単に経営が苦しいのか?、いずれにしても商売熱心でご苦労なことである。 “山を終えたら温泉”は定番中の定番だ。風呂に浸かり汗を流せば、疲れが吹っ飛び爽快な気分になる。 チラシを見ると、この温泉センターは「わたらせ渓谷鉄道・水沢駅」のホームに建っているようだ。何時だったか忘れてしまったが、確か秋の紅葉を扱った旅番組で、トロッコ列車に乗って温泉に入るシーンを見たような記憶がある。 駅中の温泉なんて滅多に体験できるものではない。早速、ナビに目的地を設定した。 折場登山口から国道に戻り、草木湖畔を快適に飛ばして20数キロ走ると、水沼駅の看板が見えてきた。 駅前広場の駐車場にR君を止めた。この直後に表題の<上州名物、おっかさん>(以下「おっかさん」と呼ぶ。)が登場する訳だが、着替えと風呂セットをザックに詰め込んでホームへ向かおうとすると、国道からR君と同じ車種、同じ色、同じ年代の車(以下「C君」と呼ぶ。)が勢いよく滑り込んできた。 C君は、ハンドルを左に切り駅前広場と反対側の民家の駐車場に止まった。 ドアが開き、運転席から威勢の良さそうな茶髪のおっかさんが、俺の方へ小走りでやってくる。 一瞬、“R君を止めた場所は駐車禁止。怒られるだろうか?”と思ったが、周りには他県ナンバーの車も止まっているし“そんな訳ないよなー!”と考えていると、 俺の傍まで息せき切って駆け寄って来たおっかさんは、R君を指差して「あたしと同じ車だね!」と言ってきた。 “はぁー?、そんな事で、見れば分かるでしょ、頭が少々変なのかな?”と思ったが、運転をするくらいだから、そうでも無いようだ。 もう一度、民家に止まったC君を見ると、おっかさんの夫らしい中年男性が俺の方をぼんやりと見つめている。 “面倒臭い女性に捕まってしまったなー!”と思いながらも 『そうですね。同じ車ですね。』と答えると 『13年目です。20万キロを超えました。』 「13年、あたしの車と同じだね。あれでも3万キロしか走ってないんだよ。先週、中古車屋で買ったんだけど、たったの20万円、安いでしょー!」と自慢気のおっかさん 続けて「前の車はね、26万キロも走ったんだよ。凄いでしょ!」と自慢の繰り返す。 初対面の旅行者に友達口調で話し掛けて来るおっかさん、“やっぱり、頭が変なのかも知れない”と用心していると 「風呂入るの?」 『これが有るから大丈夫ですよ。』とチラシを見せると 「無かったら、あげようと思ったんだけど、それを持ってるんだ。ここは温泉だし、露天もあるからゆっくりして行きなー!」 『ありがとうございます。』と返すと 「じゃー、またねー!」とC君の方へ小走りで戻って行った。 “旅は一期一会だ。じゃー、またねー!は無いでしょ。” 単に自分の車を自慢したかったのか、他の旅行者にもこんな接し方をするのか、それとも俺に一目惚れしたのか、貴女は一体何者なの? 上州(群馬)名物に「かかあ天下と空っ風」がある。 「かかあ」は女房のことで、「空っ風」は突風や雷などの激しい気象のことを指し、この地方の女性の強さを揶揄した言葉だ。 強い気性、物怖じしない態度、友達口調の話し方、登場と退場の所作など、真の「上州名物のおっかさん」に出逢えたようで、苦笑してしまった。 今までに数々の旅をしてきたが、こんなに面白くて不思議な女性は初めてだ。 人生60年、長生きしてみるものだ。
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