七面山


・期間 2015年5月4日(月)曇り/雨
・山域 山梨県
・形態 単独、ピストン
・行程 表参道登山口→七面山→表参道登山口

※ 日蓮宗の聖地である七面山を表参道から歩いてテッペンに立った。

表参道登山口<元丁目>(8:00)→肝心坊<13丁目>(8:50)→中適坊<23丁目>(9:25-9:40)→晴雲坊<36丁目>(10:20-10:30)→敬慎院<50丁目>(11:45-11:50)→七面山(12:35-13:05)→敬慎院<50丁目>(13:40-13:45)→晴雲坊<36丁目>(14:20-14:30)→肝心坊<13丁目>(15:15-15:25)→ 表参道登山口<元丁目>(16:10)


日本各地には、信仰に因む山が文字どおり“山のように存在“する。
七面山もその一つで、日蓮宗の開祖「日蓮」が本山の身延山久遠寺を守護するために
西側の鬼門とされる山に七面大明神を祭ったとされている。
したがって、この山は身延山とともに日蓮宗徒にとっては聖山として厚い信仰を受けており、
時期を問わず登拝者の多い山でもある。


春木川沿いの駐車場


正面の赤い橋の右手が登山口
 道の駅「富士川」で朝を迎えた。

 最近は、もっぱら道の駅を宿として利用しているが、何処へ行っても車中泊が多いのに驚く。
 この日も30台程の同泊者が夜を明かし、朝を迎えてそれぞれに目的の行動を起こす訳だが、驚いたことに隣のスペースに「根室」ナンバーの古びた軽自動車が止まっていた。

 中々の強者に敬意を感じつつ、洗面所で用を済ませてから山支度を整えた。

 国道沿いの「すき家」で「朝定食」を食べて、ナビの目的地を七面山登山口の羽衣にセットした。


 早川町の角瀬集落から春木川に沿った林道を走り、登拝者用の駐車場に着いた。
 車の脇で登山靴に履き換えていると、山の中腹辺りから日蓮宗のお題目である“南無妙法蓮華経”の大合唱が聞こえてきた。
 宗教色の濃い山だと知ってはいたが、登る前からお題目の大合唱に迎えられ、普段の登山前とは違う気分になった。


登拝門(元丁目)


登拝門脇の案内板
 この山は、登山口の登拝門が“元丁目”で頂上(地理上の頂上ではない)の敬慎院が“50丁目”となっている。

 登拝門まで歩いてくると、門前には白い半袈裟を肩に掛けた信者が、小声で“南無妙法蓮華経”唱えていた。
 俺も真似しようとも思ったが、日蓮宗派とは無縁なので軽率な行動は慎むことにした。

2丁目の神力坊(拝礼場所)


こんな感じの道が延々と続く

 7丁目を過ぎると、“南無妙法蓮華経”の大集団に追い付いた。

 ざっと見て100人の大集団。全員が白装束を身に纏い、先達の拡声器で増幅された大声に合わせて、規則正しくお題目を唱えていた。

 行列の要所々々にはサブリーダーが配置され「登山者が上がってきます。左に避けて下さーい!」と注意を喚起し、追い抜きざまに「ご迷惑をおかけします。」と優しい言葉を掛けてくれた。
 こうした気遣いを受けると、此方が恐縮してしまう。俺たちは部外者なのに、礼節の正しい信者の集団に敬意を感じた。


肝心坊の休憩所は信者で満杯


休憩所に入りきれない信者

 13丁目の肝心坊に着くと、ざっと見て200人の白装束の信者が休憩所を埋め尽くしていて、溢れた人達は登山道脇で休憩している。

 小休止しようと思ったが、この状況では断念せざるを得ない。
 袈裟の襟元を見ると“○○会安房支部”と書いてあり、何と!俺が生まれた地元からやって来た団体であった。
 「私も安房の出なんですよ!」と声を掛けようとも考えたが、俺のような軟弱登山者が割って入る場合ではない。

 「R君。TPOを考えなさい!」との神の声が聞こえたような気がした。


ジグザグを繰り返す


丁目ごとにあるベンチ
 登山道は、杉林の中をジグザグに刻んで延びているので、視界は全くない。

 丁目ごとに休憩のベンチが備えてあり、登拝者は自分に合った丁目で休憩できる。
 俺も適当な場所で休もうと思っていたが、結局は23丁目の中適坊まで歩いてしまった。

中適坊(23丁目)


休憩所の内外の壁はお札で埋め尽くされている

 この表参道は、50丁目の敬慎院まで三つの坊があり、昔は宿泊もできたようだが、今はこの中適坊を含めて全ての坊が休憩だけの場所となっている。

 スポーツドリンクを飲み、ドーナツを齧っていると、30歳くらいの一人の女性が休憩所に入って来た。
 この女性、登山口から抜きつ抜かれつの関係だったので、俺に親近感を覚えたのか?、それとも俺と二人きりでは間が持てないのか?
 「どちらからですか?」と尋ねてきた。
 『千葉からです。』と答えると
 「私、東京なんですが、今夜は頂上の敬慎院に泊まります。」と言う。
 『そうですか!私は頂上までピストンして麓の方で泊まります。』と答えてしまった。

 流石に、“車中泊を繰り返しています!”とは言える雰囲気ではなかったので
 『へー、敬慎院の宿坊ですか、良いですね!明日は天気も良さそうだし、日の出が拝めそうですね。』と、毒にも薬にもならないような言葉を返した。


東京スカイツリーに似たスギの木

 彼女と別れて、一人で丁目を刻んで行くと、27丁目過ぎに東京スカイツリーにそっくりな杉の木が立っていた。
 
 明らかに病的な奇形樹に違いないが、その姿に思わず頬が緩んだ。


晴雲坊(36丁目)


和光門(46丁目)
 

 

 36丁目の晴雲坊で休憩して、46丁目の和光門を潜ると、いよいよ敬慎院の領域だ。


鐘楼と手水場
(右手の門を入って行ったが裏門だった)


敬慎院の境内には立派な伽藍が並んでいた


本堂脇と休憩所(信者が続々と出て来た

 緩やかな参道を登って行くと、鐘楼と手水場に着いた。

 脇にある門を抜けて境内に入ると、立派な伽藍が幾つも並んでいた。

 敬慎院の本堂(本殿)にお参りを済ませ、境内の隅っこの方で腰を降ろしていると、若い僧侶が「堂内でも休めますのでどうぞ!」と声を掛けてくれた。

 こんな格好でお邪魔するのは申し訳ないので、丁寧にお断りすると、本堂に続く休憩所から半袈裟を肩に掛けた大勢の信者が出てきた。

 あー、入らなくて良かった、やっぱり俺みたいな部外者は隅っこの方が似合う。


随身門(49丁目)を裏から見上げる


随身門の額縁富士(出典:テッペンさん)


富士山は雲の中(俺の写真)


表側から見た随身門

 俺は登山者だ。
 信者なら敬慎院がゴールだが、ここから40分ほど登った七面山まで行かなければ意味がない。

 49丁目の随身門は、50丁目の敬慎院より20mほどの高みに建っていた。
 先ずは随身門を潜ってから敬慎院に参拝するのが正規のルートだと今になって分ったが、引き返す訳にもいかないので、門を出ることにした。。

 随身門の裏側からネット仲間が撮った“額縁富士”を思い出した。
 記憶を頼りにカメラを向けたが、富士山は雲の中にお隠れになっていた。


七面山へ向かう


ケーブル建屋の脇を抜けてカラマツ林を歩く

 随身門の先に七面山への案内板があった。

 ここまでは敬慎院へのお詣り登山だ。これからは、丁目を気にすることなく自分の感覚で歩くことができる。
 
 よーし、良いぞーー!

  荷積み用のケーブル建屋の脇から山頂への道がカラマツ林の中に伸びていた。

 


大ガレ(大崩れ)


足元が崩れそうで怖い

 

 この山の名物“大ガレ”の縁に立って下を覗き込んだ。

 生憎と言うか、運良くと言うか、霧が掛かっているので圧倒的な高度感が伝わってこない。
 
 時折、霧が切れて赤茶けた山肌が見えた。これだけでも、自然の成せる業を味わうには十分であった。


シラビソ林を進む


木々に囲まれた七面山の頂上

 

 登山道は大ガレに沿って緩やかに登り、途中からシラビソの植生する原生林に変わった。

 少しの急勾配を我慢すると、木を切り払った広場に出た。七面山の頂上である。
 誰も居ない一人ぼっちの頂上は、木々が西風に揺れているだけの静寂の空間だった。


一人ぼっちの山頂


ビールと山飯

 

 昼飯を食べ終えると雨がポツポツと降ってきたので、カッパを着込み雨支度をした。

 登る前は、この先の喜望峰まで足を延ばして雄大な南アルプスでも眺めようと思っていたが、この天気ではどうしようもない。
 雨を恨んでも仕方がない。下山しよう。


一ノ池
 敬慎院まで戻って“一ノ池”を見学し、来た道を下って行った。

 40丁目辺りで“南無妙法蓮華経”の大集団と擦れ違った。先達の声質、拡声器の形からして、登りで追い越した信者の集団に違いない。
 こんなに時間を掛けてゆっくりと登拝するのは、逆に疲れるんじゃないかなー?。
 
 彼らは俺のような登山者には目もくれず、長ーいロープのようなサラシの白帯を握り締め、数珠繋ぎになって一心に“南無妙法蓮華経”を唱えて登っていた。

登山道で唯一の展望(30丁目付近)
 30丁目辺りまで下ってくると、今度は太鼓を叩き、鈴を鳴らしながら登ってくる“南無妙法蓮華経”の中集団と擦れ違った。
 
 その後も、袈裟姿の家族連れ?と擦れ違うなど、この山が持つ特異な光景に出逢った。

白糸の滝とお萬の像


旅館と土産物屋は閑散としていた
 元丁目の登山口まで降りてきた。
 吊り橋を渡り“白糸の滝”を眺めて、“お萬の方”の像に手を合わせた。

 我が家は、特定の宗教を信心している訳ではないが、仏事や神事には人並に尊厳を抱いている。
 今日一日は、山頂の静けさを除けば、“南無妙法蓮華経”の一日だった。

 山から降りても、白装束の老若男女の姿が脳裏に焼き付き、“南無妙法蓮華経”のお題目が頭の中に響いて消えなかった

 この山の登高差は、半端じゃない。
 2,000m足らずの山と言っても馬鹿にしてはいけない。登山口が400mだから1,600mを登り降りしなければならない。
 脚に自信のない方は、注意して下さい。